台湾でも大きな地震が発生しました。被災された方々にお見舞いを申し上げると共に、震災に備えて準備を怠らないことの重要性を再確認しました。ビジネスにおいてもBCPを策定して万一の災害などに備えることが重要です。ただし、計画を策定するだけでは、実際に災害等が発生したときに役に立ちません。日頃から万一のときを想定した行動をとる、定期的に訓練を行うなどが必要でしょう。
ブログを始めてからもう少しで3年になります。凡そ150回になりますが、同じ視点で物事を捉えると内容が似通ってきてしまいます。新しい視点で捉える必要があるのでしょうが、なかなかに難しいものです。今回は、介護をする従業員について考えてみましょう。高齢社会が進んでいる現在、老々介護、ヤングケアラーなどが社会問題化しています。これらのケースではなくとも、皆さんの職場で働く従業員についても、親などの介護と仕事の両立に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
労働者が親、祖父母、子等の介護を行うために取得できる休暇制度として、介護休業が育児介護休業法に定められています。親などが2週間以上にわたり常時介護を要する状態にあることを介護休業取得の要件としています。介護休業の期間は、対象者1人につき93日間を限度とし、3回に分割して取得できることとなっています。この介護休業を取得している期間は、雇用保険給付として介護休業給付が賃金の67%が支給されます。介護休業給付の受給要件は、雇用保険の被保険者期間が介護休業を開始した日前2年間に12ヵ月以上(賃金支払の基礎となった日数が11日以上ある月を1ヵ月とカウント)あることです。また、介護休業を開始した日から1ヶ月毎に区切った支給単位期間に就労した日が10日以下の月が支給対象とされます。
先日、こんなご相談をいただきました。女性の従業員が母親の介護のために向こう1年程、月の半分を休みたいのでどうしたら良いかと言うものです。父親も介護をするそうですが、母親同様高齢であるため交代で介護をするらしいのです。方法としては、①介護休業を取得する②休みの日は欠勤として扱い、賃金を控除する③所定労働日数を1/2に変更して賃金も半分にするの3つが考えられます。介護休業を取得するのが一番良いように思われます。しかし、母親の介護は、比較的短期間を複数回取得する必要があるということが想定され、1ヶ月を丸々休むということではないとのこと。法定通りの介護休業制度では対応できないようです。そこで、②又は③が選択肢として考えられます。これらを選択した場合、社会保険の適用の如何を検討する必要があります。②を選択した場合は、雇用契約内容の変更はありませんので、社会保険の被保険者資格はそのままです。これに対して③の場合は、雇用契約内容が変更となり、労働時間が短くなるため社会保険の加入要件を満たさなくなりますので、被保険者資格を喪失することになります。そうすると、別途、国民健康保険、国民年金に加入する手続きをしなければなりません。国民健康保険、国民年金に変更になることは、傷病手当金の制度がない、老齢厚生年金など年金額が増えないということになり、従業員にとっては不利になります。従って、②の方が従業員にとっては良いのでしょう。しかし、理由が母親の介護であることが明白であっても、欠勤を続けるというのは、周りの従業員に対してもあまり良い印象を与えるものではありません。更に、欠勤を続けることは労務管理上も好ましいものではありません。そこで、基本に立ち返り、介護休業について考えてみましょう。育児介護休業法に定める介護休業を上回る制度を導入すれば、対応は可能となります。法令で定める93日間、3回に分割の基準を上回って企業が独自の制度を導入することは法令違反とならない限り認められます。休業期間を120日、4回の分割取得ができるとするなどはその例です。そこで、ご相談をいただいたケースで考えてみると、年間の所定労働日数が260日であるため1年間に130日程度の休業が必要となります。法令を上回る場合は独自の制度も良いと言いましたが、たとえ120日としても、法は、1人の要介護対象者についての日数を定めているため、「1年間に」という制限をつけることは法に反しできません。そこで「1年間に130日」とすることはできず、単に対象となる要介護者につき「130日」とする必要があります。次に分割回数をどのように設定するかが問題です。うまく運用をするためには分割回数を多く設定する必要があります。そこで、10回に分割できるように設定しました。これであれば、介護休業として休むことが可能になります。この制度を導入するとなると就業規則(通常は、育児介護休業規程として別の規程に定めますが。)を改定する必要があります。就業規則は、全ての従業員に等しく適用されるため、今後、他の従業員が介護をする必要のある場合においても同様の制度が適用されます。同時に複数の従業員が同じように介護をする必要が現在は無いと思いますが、将来的にはどうなるか分かりません。従業員を大切に思う気持ちから、独自の制度を導入することは良いことですが、それにより必要な人員を確保できず業務に支障を来すようでは問題ありです。しかし、今後増加するであろう介護を考えると、介護離職を防止するためには、このような制度の導入も必要ではないかと思います。この介護休業の制度により休む場合には、勿論、社会保険はそのままですが、休業中の賃金は無給としますので、欠勤と同様に休業期間については賃金控除をします。ただし、10回に分割した場合には、130日のうち93日全てではなく一部の休業につい介護休業給付金を受給できます。
良き人材が定着するように職場環境や労働条件を整備することの必要性は今までもお伝えしてきました。これまでの視点では、使用者側が従業員のことを考えて整備を進めていくということでしたが、従業員の意見を十分にくみ取る視点が必要です。労使双方が忌憚のない意見交換の場を設け、働き易いだけではなく、生産性の向上も見込める方法を一緒に考えることが重要でしょう。使用者は、雇用を維持する義務がありますが、赤字が続いて会社が倒産してはその義務も果たせません。労使双方が自分事として職場環境や労働条件を良くしていくことについて協議をしていくことでワークエンゲージメントが高まることは想像に難くありません。