人材定着のための具体的な処方(18)

2月以降、様々な集まりがあり、外食をする機会が大幅に増加しました。おかげさまで?体重が増加し、減量の必要性を感じるほどです。多くの人と出会い、様々な知見に触れることは有益ではありますが、暴飲暴食をコントロールできない自分を恥ずかしく思います。今月から少しずつセーブをしていきたいと思います。

 

さて、今回は労働基準法第41条第2項の「管理監督者」について考えてみましょう。労働基準法第41条では、法定労働時間、休憩、法定休日の規定を適用しない労働者について定めています。その1つが第2項に定める「監督若しくは管理の地位にある者」です。ずいぶん前になりますが、ハンバーガーチェーン店の店長が「名ばかり管理職」として管理監督者性を否定された裁判が有りました。その後、厚生労働省から「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達が出され、店長などの管理監督者性を判断する要素が示されました。①職務内容、責任と権限②勤務態様③賃金等の待遇の3つの要素それぞれについて、管理監督者性を肯定、否定する要素となる考え方を示しています。私共がご相談に乗る案件においても管理監督者性に関するものが多くありますが、概ね管理監督者性が否定されるケースに該当します。と言うのも、私共がご相談を受ける企業は、ほとんどが中小企業だからです。管理監督者性を判断する通達は、前記のものの他、はるか昔の昭和の時代に「都市銀行等における管理監督者の取扱いの範囲」という通達があります。そこでは、都市銀行の支店長、本部の部長や課長などが管理監督者性を認められ得るとしています。これを根拠に、中小企業の部課長を管理監督者として取り扱っているケースが散見されます。しかし、都市銀行はその規模が大きく、支店における人員も多く、部課長の権限は非常に広範にわたっていました。また、報酬も相応であったため、管理監督者性を認められ得ることとなっていましたが、中小企業においては、部課長は、採用、解雇などの権限はなく、労働時間については一般の労働者と同様、定時が有り自由な時刻に出退勤できるわけではありません。更に、待遇についても、役職手当が幾ばくかは加算されていますが、一般労働者が長時間残業をすればその差はほぼなくなる程度が多いのではないでしょうか。中小企業において管理監督者性を認められ得るのは少なくとも取締役兼務の労働者でしょう。よく、「経営会議に出席しているので経営に参画している」という弁を聞きますが、それのみをもって管理監督者性を認められるとは思いません。従って、中小企業においては、ほぼ管理監督者に該当する労働者はいないと考えるのが良いでしょう。万一、管理監督者として取り扱い、退職後に残業代の未払い請求をされた場合には、相当な高額となることが予想されます。管理監督者だからと言って役職手当を15万円、基本給を30万円の合計45万円支払っていた場合、残業代のベースとなるのは45万円になります。月に45時間程度残業をしていたとすると、月の未払い残業代は、15万円程度になります、3年間遡ると540万程度となり非常に高額になります。更に、管理監督者とされた労働者は、長時間労働になりがちなこともあり、体調を崩しやすくなります。これでは、仕事に対するモチベーションも低下してしまうことでしょう。よく言われる中間管理職であるにもかかわらず、管理監督者として残業代も支給されずに責任ばかり押し付けられては、管理職になることを拒否する労働者も出てくるでしょう。実際、若年労働者にアンケートを取ると、管理職にはなりたくないという意見が多数を占めます。権限と責任、報酬と労働時間のミスマッチがその原因の一つであることは間違いありません。安易に管理監督者として取り扱うことは労働者にとっても企業にとってもデメリットばかりです。

 

労働基準法第41条第2項では、管理監督者を「地位」として定義しています。では、管理職は「地位」なのでしょうか?厚生労働省の職業分類表では、管理職を1つの職業として定めています。つまり、管理職は職種であり地位ではないとの取扱いです。これは、ジョブ型雇用が一般的である欧米労働市場においては至極当たり前の考え方です。大学や大学院においてマネジメントを学びその訓練を受けて就職と同時に管理職に就くというのが、ジョブ型雇用です。日本の労働法制においても基本的には同様の考え方を採用していますが、社会慣行として、管理職=経験や年齢を重ねて就く地位として考えられてきました。ここに、名ばかり店長など実態とそぐわない管理監督者が生まれる原因があると思います。管理監督者=管理職ではないことを経営者は認識する必要があるでしょう。管理監督者はあくまでも地位であり、管理職は職種であるということを。最近は、国がジョブ型雇用の定着に向けて様々な取り組みや支援を行っています。しかし、本来のジョブ型雇用とは異なる日本型ジョブ型雇用とでもいえるものを目指しているようです。日本型ジョブ型雇用で転職を容易にすることで労働者の賃金が上昇すると考えているようですが、少し早計にすぎるように思います。本来のジョブ型雇用に対する労使の認識をしっかりとしたものとした上で、我が国の労働市場にマッチした制度を構築するのが良いのではないでしょうか。管理職は、管理を行う職種であるとの共通の認識を持つことが、管理監督者≠管理職との認識を定着させ、本来の労働基準法が定める管理監督者を正確に理解することに役立ちます。

 

労働者は、労働契約の債務の本旨に則り労働を提供する、使用者は債務の本旨に則り労働者の安全と健康を確保し賃金を適正に支払う。労使双方が労働契約における債権債務の履行を適切に行うことがより良い職場環境の整備に役立つのではないでしょうか。