人材定着のための具体的な処方(19)

爽やかな五月晴れの日に心すがすがしく、何となく活動的になっていることに気づくことがあります。活動的になると様々なことに対する気づきが多くなるような気がします。多くの人との出会いや普段目にしなかったものを見ることで脳が刺激されるのでしょう。常にそうありたいと思います。

 

さて、今回は良い企業風土の構築に「自分を知る」ことの重要性について考えてみましょう。昨日、経営者の集いで100年企業の経営者から「不易流行」について話を聴く機会が有りました。「不易流行」は、「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと」です。変化しない本質的なものとは、即ち自分自身の本質であり、それを踏まえた上で、新たな挑戦をするそんな意味であろうと私は捉えました。自分の本質とは、生まれ持った資質と自分の歴史により培われたものから構成されていると考えられます。そうであるならば、先ずは自分を知ることが最重要であるということです。その経営者は、出来るだけ出生から現在までの自分の歴史を探索し、文字に起こすことで自分自身の本質を知ることができると説かれていました。その他にも自分を知る方法は沢山ありますが、その1つにエニアグラムが有ります。

 

エニアグラムは人の性格を9つのタイプで捉え、それぞれの性格の傾向を基となる動機を理解することで、自分の強みを伸ばしたり、他人の性格傾向を知ることで自分との違いを受入れることにより円滑な人間関係の構築に役立つとしています。9つのタイプはそれぞれに自分が大切とする価値観に基づき、それを動機として普段の思考や行動パターンを形成しているとされています。我々は、自分や他人の性格の傾向を知ると「自分は○○な性格だ。彼は△△な性格だ。だから××だ。」とレッテルを張るようなことをしがちです。しかし、このような捉え方はより良い人間関係を構築することにおいては却って邪魔になります。エニアグラムで自分のタイプを知り、更に相手がどのようなタイプなのかを観察して知ることで、双方の思考・行動パターンの違いを知るり、お互いの違いを受入れることにつながります。また、エニアグラムには統合と分裂という概念があり、自分のタイプに不足する部分を補う別のタイプを取り入れることを統合と言い、自分のタイプの弱点を更に助長する別のタイプを取り入れてしまうことを分裂と言います。私は「完全主義者」又は「献身家」のタイプの特徴が強いようですが、 「完全主義者」は、「楽天家」タイプの思考・行動パターンを取り入れること、「献身家」は、「芸術家」タイプの行動・思考パターンを取り入れることで自分の不足を補うことができる統合になるとされています。その反対に、「完全主義者」は「芸術家」、「献身家」は「統率者」を取り入れるとマイナスに作用し、分裂になるとされています。このことは、自分にとってプラスになるタイプとマイナスになるタイプの人との付き合い方を示唆しています。プラスになるタイプについては積極的に人間関係を構築し、マイナスになるタイプについては、遠ざけるのではなく、マイナスになるタイプが統合できるタイプの思考方法を自分が持つことで、マイナスにあるタイプの人を受容することができるのです。私の例で言うと、「楽天家」タイプの人は私を明るくポジティブにしてくれますし、視野を広げてくれることにもなります。これに対し、「芸術家」タイプの人は、私を感情的にさせることが多い傾向にありますが、「芸術家」の統合タイプである「完全主義者」の思考パターンで対応することで、相手が現実的に物事を捉えることが苦手であることを知り、それを受け入れることができます。エニアグラムは、使い方によっては単なる性格診断のようになっていまいますが、日常生活に活かしていくことは大いに有益であると私は考えています。ご興味のある方は一度調べてみては如何でしょうか。

 

自分を知り相手を知ることで、豊かなコミュニケーションを形成することが可能になります。コニュニケーションが良好な職場は、風通しの良いものです。風通しの良さは、良い企業風土の形成に欠かすことができません。最近のZ世代と呼ばれる若者達は、いわゆるホワイト企業では満足せず、プラチナ企業と呼ばれる企業を好む傾向にあります。ホワイト企業は、労働環境が整備された働きやすい職場を指しますが、それだけではZ世代には満足されません。彼らが求めるものは、社会的存在としての企業が如何に社会貢献を果たしているか、企業の挙げる収益は、社会正義に基づいて正当なものかなどマズローの欲求5段階説に従えば「自己実現」のレベルです。それを可能とするがプラチナ企業であると言われています。ホワイト企業は、人材定着の観点からすると従業員の労働条件などの不満足要因を取り払った状態、プラチナ企業は、それにやりがいなどをプラスした状態と言えます。やりがいを職場で実現するためには、適切な労務管理を行った上で、最適な人事管理を行うことです。人事管理は、人事制度や教育制度、人員配置や採用などが有りますが、いずれについても良き企業風土がベースになければ成立しません。1人1人が自分と他人との違いを認めて受け入れることが良好な企業風土を生み出すベースとなります。自分を知り、相手を知ることがその第一歩となります。