昨日は、お客様の事業場でより良い職場作りというテーマで研修を実施しました。7時間に及ぶ研修でしたが、参加された管理職の皆さんは、真剣に課題に取り組んでくださいました。その中で、思いを言葉に変換することの難しさを感じました。部下の成長を願い、行動指針を作成してもらったのですが、誰もが分かりやすい言葉で指針を表現することに時間を要しました。改めて、言葉を選ぶことの重要性について考える良い機会をいただきました。
さて今回は、パート労働者が多い職場で起こり得るハラスメントについて考えてみたいと思います。パート労働者は、現在では企業にとって重要な戦略的人材であることもしばしばです。人手不足の昨今、パートタイマーを募集しても中小企業ではなかなか採用に至らないことがあります。特に、飲食業界では顕著なのではないでしょうか。そのような中、採用できたパート労働者が短期間で退職してしまうことは、企業にとっては大変な痛手です。比較的パート労働者の多い職場で耳にするのが、グループの対立です。2つのグループに分かれて、それぞれに相手のグループに所属する労働者に対して悪口を言ったり、挨拶をしなかったりと言ったことが起こります。長年勤めてきた年長のパート労働者が、ボス格となり、グループを構成するわけですが、このボス格のパートは、仕事もできて会社からは重宝される場合がほとんどです。従って、会社としては、ボス格のパートに退職されては困ると考え、グループの対立を放置しているケースが多いのが実情です。決してボス格のパート労働者が、意図的にグループを作っているわけではありませんが、仕事を新しく入社したパートに教えたりする中で、相性が有ったり境遇が似通った者同士で自然と集まることが多いようです。こうしたグループの形成は、教育指導やコミュニケーションにおいては、グループ内では比較的効率的に行われているようですが、グループを異にするとそうではないようです。更に、グループに所属することを快く思わない人もいますが、グループに属しないことで仕事をする上での非効率が生ずるために、否応なくグループに所属するケースもあるようです。また、人間関係の悪化を恐れてグループに所属するケースもあります。このように形成されたグループにおいては、一定のヒエラルキーが生じ、最下層のパートはハラスメントの対象となりやすくなります。更に、複数のグループが形成された場合には、グループ間の対立が生じることが多く、お互いに無視をしたり攻撃をしたりということが起こります。こうしたときに、「パワハラを受けた」という訴えが起こりがちになります。
パワハラは、白か黒かという判断が難しいケースが多くあります。厚生労働省はパワハラを「職場における、優越的な関係を背景として、業務の適正な範囲を超えた言動により労働者の就業環境を害するもの」であると定義し、6類型に分類しています。①身体的な攻撃②精神的な攻撃③人間関係からの切り離し④過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害の6つです。実際の職場においては、複数の類型が混在していたり、ハラスメントであることは確かだが、定義に当てはまらないケースなど、いわゆるグレーなケースがほとんどではないでしょうか。パート労働者間におけるパワハラは、基本的にヒエラルキーが上位のパートが、経験や勤続年数、社内の人間関係や仕事のスキルなどと言った優越的な関係を背景として、勤続年数や経験の短い低位のパートに対する業務上必要な範囲を超えた言動が多いように思います。これは同一グループ内で起こることもありますが、別のグループの構成員に対して起こることもあります。特に、グループ同士が対立しているときには、別のグループの構成員に対するパワハラが起こりがちです。
このグループ同士の対立は、決して放置して良いものではありません。使用者には、労働者が安全でかつ健康的に就労できる職場環境を確保維持する義務が課されています。グループを形成することは、人間が社会的動物である以上、ある意味必要なことであり、又不可避なことであると思いますが、それを理由として職場環境が害されることは排除すべきです。
この問題の根底にあるのは、正規労働者や管理職とパートの関係にあるのではないかと私は推察します。パート労働者は、正規労働者と担当する職務の内容や責任の範囲が異なるケースが多いため、仕事に対する権限の範囲が狭く、長年の経験を積んでも社内における処遇があまり向上しないケースが多いでしょう。賃金面では、一定程度の昇給が有りそれなりでしょうが、賞与については厚遇されているケースは少ないのではないでしょうか。しかし、それ以上に、仕事面において、自分の意見を上司が聞いてくれなかったり、やりがいを見出しにくい組織構造となっていることが正規労働者とパートの間の関係性を悪化させていると思います。経験豊富なパートが、新規採用のパートに対して仕事を教えることは当然に求められることですが、それ以前に、上司から自らが正当な評価を受けていないのであれば、仕事を教えることは、義務的なこととなります。そうすると、つまらない仕事を増やされて、本来の自分の仕事に費やす時間が削られるわけですから、モチベーションは低下します。そして、そのようなことが続くと、上司に対する不満が蓄積されます。不満を持ったパートが同様の不満を持つパートと次第にグループを形成することになります。このグループの存在意義は、上司に対する不満のはけ口であり、更なるモチベーションの低下を招きます。やりがいや働き甲斐をパートが仕事に見出せるように上司が適切な評価を行ったり、一定の権限を付与することでパートの成長を促す、パートの意見を業務に取り入れていくなど、上司が本来果たすべき人材育成という役割を適切に果たすことで、パートの不満を解消することが必要となります。不満が少なく、仕事に対するモチベーションが向上すれば、パートたちがグループを形成する場合においてもその結びつきは緩やかなものとなり、お互いの人権や人格を尊重する結果、グループ内でのヒエラルキーも解消されていくでしょう。ヒエラルキーのない緩やかなグループであれば、他のグループとの対立も少なくなり、パワハラも減少するはずです。つまり、パート労働者間のパワハラは、使用者である企業が、適切な人員配置、人材管理を行うことにより、一定程度は防止することが可能なのです。よく考えてみれば、働くことに喜びを見出し、お互いを尊重する職場には、ハラスメントは起こりにくくなっています。パワハラはコミュニケーションの問題であると言われますが、一面においてはその通りですが、それのみではなく、人事管理においてもパワハラを起こしにくい職場作りに必要な要素を持つことが分かります。