事務所でエアコンを入れる日が増えてきました。日に日に暑くなり夏の到来を感じます。事務所のある熱田区では6月5日に熱田まつりが開催されます。別名尚武祭とも言い、武道を奉納する神事が執り行われます。私が子供の頃には、小学校の相撲の対抗試合が有り、私も参加しましたが、大した成績ではありませんでした。何となく懐かしく思い出します。
さて、今回は、労働時間管理と労働災害について考えてみましょう。まず労働時間管理については、事業主に適切な労働時間の把握が義務付けられています。労働安全衛生法において労働時間の把握が義務付けられました。何故、労働安全衛生法で義務化されたかというと、長時間労働をした労働者からの申し出があった場合に面接指導を行わなければならないためです。それを根拠に安全衛生規則に「タイムカードやPCなどによる客観的な労働時間の把握」が規定されました。従来の出勤簿に手書きで時間を記録したりする方法は、改ざんされ易いために、現在では適切でないとされています。皆さんの会社ではタイムレコーダーや勤怠管理ソフトを導入しているのではないかと思いますが、未だに、それが出来ていない企業も結構あります。残業代の未払いや労働災害での労使紛争が起こった時には、必ず労働時間の適正な把握がなされているかどうかが問題となります。
先日、深夜業が所定労働時間に含まれる企業から、就業時間中に心筋梗塞を起こして従業員が倒れたと連絡を受けました。幸い命に別状はなかったのですが、カテーテルによりステントを挿入する手術を受けたそうです。就業時間中に救急車で運ばれましたので、従業員は医者から「労災保険を適用するように」と言われたそうです。さあ、大変です。心筋梗塞などの心疾患は、加齢や生活習慣や遺伝など本人の内的要因が主な発症原因ですが、長時間労働などが主な要因として発症することもあります。業務上の疾病については労働基準法施行規則に定められていますが、業務に起因する疾病を引き起こす有害因子を受ける状況にあり、その有害因子が原因で発症した場合には、業務と疾病の因果関係を医学的見地や経験則から認め、業務上の疾病としています。心筋梗塞は、有害因子を「長期間の過重業務」として業務上の疾病とされています。つまり、「長期間の過重業務」を行った場合には、本人の内的要因よりも業務に起因する有害因子が主な要因として認めるということです。そこで、有害因子の有無について厚生労働省では、「脳・心臓疾患の労災認定」基準を設け因果関係の評価を行うようにしています。何故なら、労災事故は、業務遂行性と業務起因性に基づき業務と発症の因果関係の有無を判断するからです。労災認定基準によれば、「長期間の過重業務」を有害因子として、発症前概ね6ヶ月間に疲労の蓄積が認められる長時間労働を指摘しています。長時間労働の判断基準は、①発症前1ヶ月から6ヶ月の間にわたって概ね45時間を超える時間外労働②発症前1ヶ月間に概ね100時間を超える時間外労働③発症前2ヶ月から6ヶ月にわたって概ね80時間を超える時間外労働とされています。
そこで実務上問題となるのが、時間外労働時間の算定です。適切な労働時間の把握をしていれば、時間外労働時間数の算定はたやすいでしょう。しかし、適切な労働時間の把握をしていない場合には、それができません。連絡を受けた企業では、労働時間管理はタイムカードで行っていましたので客観的に記録を残しています。しかし、大きな落とし穴が有りました。タイムカードの打刻時間と実労働時間に大きな乖離があったのです。その理由は、従業員が「家に居たくない」という理由で、タイムカードに終業の打刻をした後も会社に残り、勝手に仕事をしていたと言うものです。何故そのようなことが起こったか?それは、管理者が、「何度、帰宅するように言っても言うことを聴かないから」と放置していたからです。
実際にはどの程度の残業をしていたかを確認したところ、タイムカード上は月に40時間程度でしたが、記録にない時間は概ね60時間程度だろうということでした。それを1年以上にわたって続けていたとのことです。適切な労働時間の把握は、単にタイムカード上に全ての記録を残すことではありません。過重労働とならない為に、労働時間を把握することで、残業をさせなかったり、年休を取得させたりして労働者の健康を確保することが目的です。仮に、本人の内的要因が主な発症原因であったとしても、それを誘発する環境を放置していたとすれば、その責めを逃れることはできないでしょう。ましてや、適切な労働時間の把握を怠っていたというのは管理者としての責任を放棄していたと言わざるを得ず、その責任は重大なものと言えます。
適切な労働時間の把握は第1に労働者の健康を確保維持するために必要なことです。次にそれと表裏一体をなす事業主の安全配慮義務を履行するためには欠かすことができない義務です。人間にとって一番の幸せは何でしょう?自己実現や社会貢献でしょうか?勿論、それらは幸せの一つでしょうが、健康であることではないかと思います。健康であることは、健全な思考の基本です。健全な思考は人間の本能をコントロールすることに役立ちます。健康であれば、自己実現や社会貢献と言った高次の満足を得やすくなるでしょう。従業員が、生き生きと働くために、健康であることが必要だと思います。労働時間管理を適切に行うことが如何に重要か日頃から肝に銘じたいですね。