人材定着のための具体的な処方(25)

やっと梅雨入りしたようです。今年はラニーニャ現象で酷暑となる予想です。暑い日にはかき氷やアイスクリームで涼をとって熱中症には気を付けたいものです。暑いと言えば生ビールが美味しい季節でもあります。飲みすぎにならないように適量を心掛けたいと思います。

 

さて、今回は、労働基準監督官についてお話しましょう。労働基準監督官は、労働基準監督署に複数人います。事業場の調査などで皆さんも会われたことがあるのではないでしょうか。労働基準監督官は、国家公務員であり、労働基準監督官採用試験に合格した者が労働基準関係法令に基づいて法に定める基準を事業主に順守するよう求めて労働条件の確保向上を図り、労働災害の補償を行うことを任務としています。

 

労働基準監督署では監督、安全衛生、労災の3部門において労働基準監督官がそれぞれに業務を所掌しています。監督部門では、労働基準法や最低賃金法に基づく労働条件について事業場や事業主に対して臨検や捜査を行い、36協定や解雇予告適用除外認定などにより法令で禁止されている事項について許可や認可の事務を取り扱ったり、労働者からの申告の受付や相談などの業務を行っています。就業規則や36協定、変形労働時間制の届出等は、この監督部門に対して行います。

安全衛生部門では、労働災害発生時には臨検を行い、労働災害発生状況の把握や労働災害を発生させた事業場や事業主に対して災害防止のための勧告、指導を行っています。他にも安全衛生法に基づき機械の設置の審査やクレーンなどの検査等を行っています。労災事故が発生したときの労働者死傷病報告や定期健康診断結果の届出等はこの安全衛生部門に対して行います。

労災部門では、労働者災害補償保険法に基づき労災請求の事案に対する聞き取りや実地調査などを行い、労災保険給付の審査を行っています。労災事故が発生したときには、療養補償給付申請(労災様式5号)や休業保障給付申請(労災様式8号)等をこの労災部門に対して行います。

 

ここ2カ月程で当事務所のお客様に対する臨検が非常に増えており、監督官と接する機会が増加しています。臨検には、①定期監督②申告監督③災害時監督④再監督があり、①定期監督は、監督署の管内の企業などに対して定期的に行われるものです。②申告監督は労働者やその家族などから監督署に対する申告があった場合に行われます。最近の臨検は、これらの定期監督と申告監督です。定期監督は、アトランダムに対象事業場をピックアップすると言われていますが、各労働局の重点調査対象業種や月の時間外労働時間が非常に長時間と想定される企業などが対象になりやすいと言われています。申告監督は、労働基準法第104条に基づく労働者等からの申告によるもので、残業代の未払いなど使用者の法令違反を是正改善するものです。定期監督は、法令順守の啓蒙と指導を目的に行われますが、申告監督は、法令違反の調査、確認とそれに対する是正勧告や命令を発することにつながります。まれに、法令に対する知識がなかったことを理由として、違反をしても仕方がないと主張する使用者がいますが、労働関係法令に対する知識不足は、労働者の保護という法令の目的をないがしろにするもので決して許されることではありません。私共、社会保険労務士は労働者が憲法や労働関係法令により保障された権利を享受できより良い職場環境の下、健康で安全に働くことができるように事業主に寄り添い労働関係法令の情報を適切に伝え、支援すること及び労働者の健康と安全を守ることが使命です。臨検を受けるたびにそのことを深く胸に刻んでいますが、至らないところが多く、反省することばかりです。

 

災害監督は、労働災害が発生したときに行われます。死亡事故や重傷事故などの重大な労働災害が発生した時や労働災害が頻発する事業場などが対象となります。事故発生状況の確認、事故の発生要因の調査、今後の事故防止策などについて事情聴取などが行われます。被災労働者の人生を大きく左右するような労働災害を起こすることは、事業主として絶対に避けなければなりません。以前、従業員が作業効率を向上させようと事業主に無断で安全装置を切った状態で作業をして片手を失う事故が有りました。最近ではほとんどの機会が、安全装置を作動させない状態にすると機械自体が起動しないようになっていると思います。しかし、予想もつかないことが原因で事故は起こるものです。普段から、しっかりとした安全教育を実施することで未然に事故を防止できるのではないでしょうか。

再監督は、定期監督、申告監督及び災害監督が実施された後に改善や是正された内容が適切に実施されているかなどを確認するために行われます。これらの臨検を拒否することはできませんので、事業主は適切に応じる必要があります。

 

このような臨検を実施する労働基準監督官には、司法警察官としての権限が与えられています。司法警察官は、法令違反の事実が確認できたときには自分自身の判断で逮捕や送検ができるのです。これは、労働者の権利を保護するために必要とされている非常に強力な権限です。ただし、日常、我々が労働基準監督官と接するときは、行政職員として助言、指導、勧告と言った行政指導を行うことがほとんどです。臨検に際して、改善指導を受けたり是正勧告を受けたりすることがそれに該当します。行政指導は、法令(行政手続法)上、必ず従わなければならないものではありませんが、行政指導の目的は、違法状態を改善して労働者を保護することにありますので、実務上、行政指導に従わない場合には、労働基準監督官は、司法警察権を発動することになります。

 

労働基準監督官は、労働者の保護を目的とした労働基準関係法令を適切に執行することを職務としていますが、使用者である経営者にとっても非常に心強い存在です。法令に関しての正確な理解や解釈について常に経営者に適切に助言や指導をしてくれます。経営におけるリスクマネジメントの観点からは、無くてはならない存在です。我々社会保険労務士にとっても、法令の解釈など丁寧な対応をしてくれます。ただ、労働基準監督官は、全国で3,000人強であり、単純計算すると各都道府県に60人強程度しか配置されていません。もっと、労働基準監督官が増員されて、日常的に経営者と接する機会が増えれば、法令を遵守したより良い職場環境作りの一助となるのではないかと期待しています。

今後は、労働基準監督署への書類の届出などは、益々、ネットなどを活用したものとなっていきます。必然的に、顔を合わせる機会が減っていきます。労働基準監督署などの主催する労働基準監督官の講演などに参加するのも良いのではないでしょうか。