人材定着のための具体的な処方(27)

昨日は、事務所の仲間と久しぶりにオーケストラのコンサートを聴きに行きました。と言っても、ある音楽家が亡くなられてその門下生たちが開いたコンサートで、合唱あり、チェロのアンサンブルありと色々な催し物がある中でのオーケストラの演奏でした。久しぶりに聴いた生のオーケストラに心が洗われた気がしました。

 

さて今回は、我々社会保険労務士についてお話ししましょう。通称、社労士と言われますが、企業などの使用者の労働保険、社会保険事務の代行や給与計算、就業規則の作成や各種協定書の作成、助成金の申請代行、労使間のトラブルに関する労務相談などを主な業務としています。年金業務や人事管理を専門とする社労士もおり様々な形で、皆様と接する機会があります。社労士は、社会保険労務士法にその存在根拠が定められており、第1条において「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資する」と定められています。つまり、社労士は、企業のみならず労働者に対しても職場で働く上での幸福追求を手助けすることが求められているのです。先日、ある市会議員の方とお話をする機会があり、「社労士が企業側ではなく労働者側の立場に立って仕事をするということを知らなかった」と話されていたことに、未だ社会での社労士の認知度が十分ではないと反省させられることとなりました。

 

多くの社労士は、企業などと顧問契約を結んでおり、企業側に立って職務を遂行しているように見えます。しかし、企業などと顧問契約を結んでいるからと言って、労働者をないがしろにしている訳ではありません。顧問契約を通して、その企業で働く労働者が如何により良い職場で幸福に働くことができるのかを事業主と共に考え、実現していくことが使命であるとほとんどの社労士は考えています。契約の相手方が事業主であるというだけで、労使双方が幸福になるように日常業務を行っています。一部には、労働者に対する非道な仕打ちを示唆する者もいますが、こういったケースは稀であり、ほとんどの社労士は、地道に国民の福利に資するように業務を行っています。

 

社労士には、「特定社会保険労務士」として業務を行っている者もいます。特定社会保険労務士とは、個別労働関係紛争におけるあっせんや調停の代理人として労使間の裁判外紛争処理を解決することができる者です。平たく言うと、労使間の賃金の未払い紛争や不当解雇などのトラブルに関して、労働者又は使用者(企業等)の代理人となって、裁判ではないあっせんや調停という双方の話し合いの手続きにおいて、その紛争を解決するお手伝いをするのです。最近では、取り扱う件数が私はほとんどありませんが、以前は年に数件あっせんの代理人として紛争の解決のお手伝いをしました。顧問先企業の代理人となることは勿論ですが、不当解雇、パワハラ、残業代の未払いなどで労働者の代理人としてあっせんに望んだこともあります。あっせんは、都道府県労働局が行う場合と、社労士会労働紛争解決センターにおいて行う場合とが有ります。労働局が行うあっせんは無料ですが、社労士会労働紛争解決センターが行う場合には、多少の費用が掛かることがあります。愛知県社労士労働紛争解決センターにおいては現在、無料であっせんを行っています。愛知県社労士労働紛争解決センターでは、社労士2名と弁護士1名の合計3名のあっせん人が労使双方の主張を聴き、和解に導くようにしています。リーマンショックの頃は、不当解雇を争うあっせんが多くありましたが、人手不足の現在は、過重労働などを原因としたパワハラや残業代の未払いなどが多くなっているようです。

 

社労士の働き方は大きく分けて2つに分かれます。1つは、皆様がご存じのとおり、私共のような中小企業を中心とした企業の顧問などとして独立して事務所を開いて働く「開業社労士」といわれるものです。もう一つは、「勤務社労士」と言われ、企業などに努めながら、企業内部においてその資格を活かして人事部や総務部で勤務する働くものです。2つの働き方で大きく違う点は、勤務社労士は、第三者から業務を受託して報酬を受け取ることができないということです。つまり、社労士として自分が勤務する会社の手続を行ったりすることができますが、他人から業務を受けることができないのです。しかし、社労士として企業に勤務することは、企業内において人事や労務の部門において活躍の場があり、その専門性は非常に高くなっているのが実情です。

 

私共開業社労士は、社労士制度が出来てから今日まで、顧客の各種手続き代行を主な業務としてきましたが、ここ10年程度は、それのみならず、顧客の問題解決を求められるようになってきました。労務は勿論のこと、人事管理、特に人事評価制度や賃金制度、人材育成や人材定着についてのアドバイスを求められることが多くなっています。労務管理の専門家というだけでなく、人事管理の専門家としてのニーズに充分にお応えできるように努めていかなければなりません。「人を大切にする企業と社会の実現に向けて」が社労士のコンセプトです。皆様の期待に応えることができるようにその責任の重さを痛感しています。