人材定着のための具体的な処方(29)

7月19日に事務所セミナーを開催いたしました。多くの方にご参加いただき心より感謝しております。ハラスメントコンサルタント、司法書士や同業の社労士の方などもご参加いただき、面白いセミナーとなりました。普段から、私共を支えてくださるお客様や仲間に助けられて今日があることを実感した一日でした。

 

さて、今回は、育児休業について考えてみましょう。育児介護休業法では、昨年の10月から産後パパ育休という制度が施行されました。これは、配偶者が産後休業中の8週間の間に男性が28日までの育児休業を2回まで分割して取得することができる制度です。出産直後の配偶者に寄り添うことができると若い男性世代にはおおむね好評のように思います。私共のお客様におかれましても、取得率は結構高いのではと思います。また、通常の育児休業に比べて、28日までと期間が短く設定されているのも取得しやすく感じるのではないでしょうか。男性の育児休業取得率は来年の4月から従業員が300人を超える企業に公表が義務付けられます。公表の義務付けは、取得率を一気に向上させる効果があります。男性が育児に参加することによって、女性が長く仕事をつくけることができるようになること、出生率の向上が見込めることが期待されていますが、昭和の時代までのような「家事、育児は女性の仕事」というアンコンシャスバイアスによる女性差別が国力を低下させることに国も気が付いたのでしょう。育児介護休業法の第1条に「子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする」と定められています。職業生活と家庭生活の両立は、女性に限るものではありません。育児は、男女双方がそれぞれに協力して行うものです。私が、若かりし頃?は、まだまだ男性は外で働き女性は家庭を守るとの意識が強くありましたが、これは、憲法に保障される基本的人権の享有を妨げることにもつながります。男性が育児に参加することは当然のことであり、親としての義務でもあります。産後パパ育休のみならず、子が1歳に達するまでの通常の育児休業も男性が適切に取得できるようになることが望まれます。

 

ところで、男性が育児休業を取得したケースで配偶者である奥さんから次のような話を聴くことがあります。「育児休業を取ってもらっても却って迷惑。育児と言っても何もできないし、家にいると、朝、昼、晩の食事を作らなくてはならないし、これと言って家事を手伝ってくれるわけでもない」

ある時、女性の参議院議員とお話をする機会が有りました。その議員は、男性の育児参加を進めることがとても重要だと話されていましたが、私が、上記のようなことを話す女性が多いように思う。従って、育児参加は勿論であるが、その前提として、男性が家事をすることが当たり前の世の中を作っていくことが必要ではないか?と質問をしました。勿論、そのような世の中になれば、更に女性の負担も減り、活躍の場が広がるであろうとの回答でした。世の男性諸氏には、「何故、男性が家事をしなければならないのか?」と仰る方もいると思います。男性が家事もしなければならない根拠は民法第752条に求めることができます。「夫婦は、同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とあります。この条文の解釈は、人それぞれにできるでしょうが、私は、家事も育児も相互に協力するものであるとの解釈がしっくりきます。とは言え、自分が家事をしっかりやっているかと問われれば、即座に「NO」と答えざるを得ませんが。しかし、今後は、男女を問わず、職業を持ちお互いが家事や育児を共同して行う世の中になっていくのでしょう。勿論、ロボットやAIの進展により、人間が手を下す家事などは減っていくことでしょうが。

 

現在においては、男性の育児休業が望ましいと考えられますが、職場においては人材が一時的に減少するわけですから、その問題を解決しなければ、他の従業員にしわ寄せがいくこととなります。恐らく、どの職場においても労働者はそれぞれに忙しく、これ以上仕事を増やすことはできない状況にあるのではないでしょうか。そうすると、育児休業をする労働者の仕事を代わりに引き受けてくれる者はいないということになります。男性が育児休業をなかなか取得できない理由の多くは、そこにあるのではないでしょうか。しかし、今後の世の中は、AIに仕事を奪われるとの危機感を持つ職業も多いと聞いています。仕事が減るのであれば、育児休業の労働者の仕事を肩代わりすることも十分できるはずです。ただし、全ての職種でそのようになるかというとそうではありません。そこで、経営者として考えるべきは、仕事の効率化とワークシェアリングなどによる属人化を防止することです。

 

私の事務所では、業務の効率化を目指して、IT化、ICT化を進めているところです。しかし、手続代行業務を行うクラウドシステムを提供するベンダーのシステムが動作が遅い、工数が非常に多いと言った理由で、なかなか作業時間を短縮することができずにいます。また、顧客とのやり取りにも別のクラウドシステムを利用していますが、十分に活用できていない現状です。ただし、IT化、ICT化により仕事の属人化を防ぐことには効果が出ていると思います。ワークシェアリングについては、多様な働き方の従業員を雇い入れることで可能になると言えます。短時間労働者、有期契約労働者、高年齢者などの雇用により、正社員の仕事を分担することが可能でしょう。勿論、仕事に対する知識やスキルのレベルを同等にする必要があるため、一定の教育が必要なことは言うまでもありません。「言うは易し行うは難し」と言いますが、従業員が数名から10名程度の職場では、なかなかそうはいっても、一人欠けることは重大事です。そのような社員を雇い入れると言ってもそれも結構ハードルが高いと思われます。そうであるならば、可能な仕事についてはアウトソーシングを利用することも検討する価値があります。経理や税務、労務などは税理士や社労士にアウトソーシングしているケースが多いと思いますが、それ以外の業務でもアウトソーシングが可能な業務が有ります。今後は、フリーランスを活用することも視野に入れておく必要があるでしょう。元々、フリーランスとして働く人材がいますが、最近では、兼業・副業を企業も認める傾向にあり、組織に属しながらある意味フリーランスとして働く人も増えているようです。私の知人の製造業の経営者は、大手メーカーに勤める人を工程管理の担当者としてアウトソーシングして非常に上手く行っています。今年の11月からフリーランス保護法が施行されますが、上手くフリーランスを活用することができれば、少人数の企業においても従業員の育児休業にも適切に対応できるかもしれません。これはあくまでも私の私見ですが。

いずれにせよ、男性の育児休業取得は、今後、増加していきます。しっかりとした対応を心掛けなければ、貴重な人材を失うことにつながりかねません。十分な対策を講ずることが必要ですね。