人材定着のための具体的な処方(32)

世間ではお盆休みに突入です。ご先祖様の霊をお迎えして来し方に感謝をし、行く末の幸福を祈念する、そのようなお盆を過ごすご家庭も少なくなってしまったのでしょうか。行楽地に出かけて休暇を楽しむ家族が多いように思います。心の中で合掌くらいはしたいものです。

 

さて、今回は、OJTについて考えてみましょう。OJT=On the Job Trainingであり、

実務を通した職業訓練です。人材開発支援助成金等では、OJTとOFF-JT(Off the Job Training、職場から離れた教育訓練)を組み合わせて人材教育を実施する場合に受給できるようになっています。OJTという言葉は、比較的製造業などでなじみがあると思いますが、製造業に限らず全ての業種でOJTは非常に重要な人材育成手法です。OJTトレーナーを新入社員などに付けて、実施をすることがほとんどですが、中小企業においては、「俺の背中を見て盗め」的なOJTがまかり通っているように思われてなりません。また、OJTを仕事のやり方を教えることと勘違いしているケースも往々にして見られます。OJTは、「能力を向上させることで成果に結びつける」ことと言えます。OJTは、計画的、段階的、継続的に実施する必要があります。基本となる知識やスキルの習得を継続的に且つ段階的に実施することで、仕事の基本を理解し、発展的な仕事に対して自ら基礎を応用して成し遂げることができるようになるのです。OJTトレーナーとして部下を育成するに当たり、犯しやすい間違いが、部下を放置してしまうことです。目先の仕事のやり方のみを教えて、後は好きにやらせることがOJTであると勘違いしていることが多いのです。実は、私も、部下に対して放置プレーをしていました。部下から、放置されていると苦情を申し立てられても、「自分で考えてやってみることでいろいろな経験ができる」などと屁理屈を言って自分を正当化していました。今回のブログを書くに当たり、その点について猛省をしているところです。

 

OJTは、計画的に、段階的に、継続的に行う必要があるため、PDCAが必須となります。P(計画)、D(実行)、C(検証)、A(改善)のサークルを継続することがOJTの効果を高めることになります。計画には、OJTのゴールを明確にしておく必要があります。「どのような状態になること」を具体的に明らかにしておくのです。ゴールのない取り組みは、モチベーションをダウンさせかねません。きちんとゴールを設定しなければなりません。OJTトレーナーは、計画、実行、検証、改善の全てにかかわる必要があります。そのためには、報連相が欠かせません。報連相は、職場におけるコミュニケーションの要です。業務の進捗状況を上司が把握したり、スケジュール調整をしたり、上司からどのような支援が必要なのかを共有することで業務を円滑に進めることができます。報連相は山種証券の山崎富治氏の著書により広く知られるようになりましたが、報連相は、部下が上司に対して行うのではなく、上司が部下に対して報連相を求め、部下がそれに応じやすい職場環境を作ることです。

OJTにおいては、新人などに報連相を求めるのではなく、OJTトレーナーが自ら部下に対して報連相の機会を提供します。では、実際の新人に対するOJTにおいて、身に付けてもらうべき能力はどのようなものでしょうか。勿論、業務に関する知識やスキルなどの「専門能力」が必要なことは言うまでもありませんが、その他にも「対人能力」や「管理能力」も必要となります。特に「対人能力」はその後の職業人生において非常に重要な能力となります。対人能力は、他者とのかかわりの中で円滑なコミュニケーションを取る能力を指します。対人能力の向上は、チームワーク、交渉、部下の育成など職業人生の根幹を支えます。OJTにおいて、しっかりと対人能力の向上を見据えた計画を立てることが必要となります。管理能力は、将来、職位が上がるにつれて必要となる組織を動かすための、「人、モノ、金、情報」を管理する能力です。新人には直接身に付けてもらう必要はありませんが、中堅社員などのOJTには必須のプログラムでしょう。このようにOJTには、段階的にどのような能力を身に付けるか、ゴールはどこにあるのかを明確にして、密な報連相をベースにPDCAを回していくことが重要です。

 

OJTに限らず、部下に仕事の仕方などを教えたのに、再度、同じことを教えなければ仕事が出来ない場合が往々にしてあります。こんな時、教えた側としては、メモを取っていないからだとか、真剣に聞いていないからだと部下に非があるように考えがちです。しかし、こうしたケースでは、教える側に問題があることがほとんどです。原理原則となる基礎的知識やスキルを教えていない為に、部下にとっては同じ仕事を与えられても実は、少し内容が異なっていると教えてもらっていない仕事である為にできないということになります。何故、どのようにして、何がなど5W1Hで考えさせることが必要でしょう。更に、教える側としては、部下が原理原則を理解したかどうかを確認する必要がありますが、「どのような内容を理解したのか」を確認しなければ、お互いに齟齬が生じて適切に教えたこととなりません。「わかった?」「わかりました」では、成長につながらないのです。「今教えたことの内容はどのようなことであったか?」「これこれこういう内容で、こういった目的があり、こうすることが必要だと理解しました」 という確認が必要です。ここで、はっきりと内容を言えずにいる場合には、再度、教える必要があります。

 

このようにOJTは、ある意味非常に手間のかかる教育訓練手法です。しかし、人を育てるためには、手間暇がかかるのは当然のことです。人材育成には時間と労力を如何にかけたかが問われます。放っておいて人が育つことはありません。適切な指導、助言、フィードバックが必要です。そのためには、自分の担当する業務の棚卸が必要ともなります。仕事は常に5W1Hを念頭にその目的や意味を考えながら行わなければなりません。お客様に喜んでいただく、社会から必要とされる、その結果として利益が着いてくる。更には、従業員が幸せになる。このサイクルを回していくことこそが、人材育成の根幹であると思います。