人材定着のための具体的な処方(34)

明日から9月です。早いもので夏休みもあっという間に終わり、子供たちも日常生活に戻ることになります。当社の従業員にも中学生と小学生の子供を持つ母親がいますが、夏休み中は昼食を作ったり家族で出かけたりと色々日常とは異なることがあり負担が増えるとのこと。それでも今後の日本を背負って立つ子供たちの元気な姿を見られるのはうれしいものです。

 

さて、今回は、ここのところ頻繁に立ち会っている労働基準監督官による事業場の調査で良く指摘される事項についてお話ししましょう。労働基準監督官の調査は、労働時間管理、賃金の支払い、年次有給休暇、労働条件の明示、その他の各種法定帳簿などについて行われますが、最近の調査で必ず指摘されるのが、労働安全衛生法に基づく健康診断についてです。労働安全衛生法第66条において、事業主が労働者に対して健康診断を実施することを義務付けています。一般健康診断として①雇い入れ時の健康診断②定期健康診断③特定業務従事者の健康診断④海外派遣労働者の健康診断⑤給食従業員の検便が定められています。健康診断を実施する対象となる労働者は、①及び②は常時使用する労働者であり、所謂、正社員及び正社員の1週間の所定労働時間の3/4以上の所定労働時間勤務するパートタイマーなどです。③の特定業務従事者とは、著しく暑熱又は寒冷な場所における業務や重量物の取扱いを行う業務、深夜業を含む業務に従事する労働者を言います。私共のお客様では、深夜業に従事する労働者がほとんどです。④は海外に6ヶ月以上派遣する労働者が対象となります。⑤は会社の事業場内の食堂などで給食の業務に従事する労働者が対象となります。

①の雇入れ時の健康診断は、採用したときに実施しますが、採用前3か月以内に雇入れ時の健康診断と同様の内容の健康診断を受検していれば、その結果を提出させることで健康診断に代えることができます。

②の定期健康診断は1年以内に1回以上実施する必要があります。③の特定業務従事者の健康診断は、その業務への配置替えの際及び6ヶ月以内に1回実施する必要があります。健康診断の内容は、定期健康診断と同様です。④は海外に6か月以上赴任する際、又は帰国後国内業務に就かせる際に実施します。⑤は雇入れの際及び配置替えの際に実施します。健康診断は安全衛生法で事業主に義務が課されていますので、その実施費用は事業主が負担しなければなりません。ただし、健康診断の実施の時期については、就業時間中でなくても良く、受診時の賃金の支払いの有無は、就業規則などで定めることとなります。ただし、③④⑤については一般健康診断である為に、①②同様に受診時の賃金の支払いについて義務付けられている訳ではありませんが、業務との関連性が強いため、通常、受診時の賃金を支払っているケースが多いように思われます。

 

これらの健康診断の結果を事業主は記録することが義務付けられています。通常は、健康診断の結果の個票を労働者から提出させ保管管理をすることが多いと思います。更に、労働安全衛生法第66条の4において、健康診断の結果、健診項目に医師の異常の所見がある場合には、労働者の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴くことが事業主に義務付けられています。ここが指摘を受けるポイントです。医師の意見聴取の義務を知らない事業主も相応に存在します。多くの場合は、産業医を選任すべき基準に満たない小規模の事業場です。産業医の選任は、事業場において常時使用する労働者が50人以上の場合に必要ですが、50人未満の事業場では選任義務がありません。そのため、医師の意見聴取が行われないことにつながっているように思います。産業医の選任義務のない事業場は、各地域にある地域産業保健センターを利用することができます。健康診断の結果、異常の所見がある労働者について無料で医師の意見聴取ができます。Webで検索すれば自社の管轄のセンターが見つかりますので是非ご活用ください。

この他、医師の意見聴取は実施しているが、改善の指摘を受けるケースもあります。それは、医師が記名押印をして意見聴取を実施した記録が残ってはいるのですが、医師の意見の記入がない場合です。産業医の多くは多忙であり、事務作業を効率的に進めたいと考えているかもしれません。しかし、安全衛生法では、労働者の健康を保持するために必要な措置について医師が記載することが求められているため、仮に、従前どおり勤務しても問題がないのであれば、その旨を記載してもらう必要があります。きちんと意見を記入してもらうように気をつけましょう。

 

一般健康診断の他に特殊健康診断の実施の有無についても指摘を受けることがあります。特殊健康診断を実施する義務を負うのは、放射線業務や石綿、鉛、有機溶剤並びに特定化学物質などを扱う業務に従事する労働者です。特殊健康診断は雇入れ時、配置換えの際や6カ月以内に1回以上実施する必要があります。有機溶剤や鉛を扱う業務は結構ありますので、自社の労働者が該当するかどうかを適切に管理する必要があります。特殊健康診断の対象業務は、特に健康を害する恐れが高いため必ず実施しましょう。尚、特殊健康診断受診時の賃金は事業主が負担する必要があることに注意を要します。

 

その他、安全衛生法関連では、常時雇用する労働者が50人以上の事業場では衛生管理者を選任して労働基準監督署長に届出る必要があります。製造業や建設業、運送業などの法令に定めのある業種は常時使用する労働者が50人以上の事業場において、安全管理者の選任も義務付けられています。衛生管理者や安全管理者が選任されている事業場においては、衛生委員会や安全委員会の開催及び議事録の作成保存が義務付けられています。常時使用する労働者が50人に満たない事業場においては業種により、衛生推進者、安全衛生推進者の選任が必要であり、安全衛生に関して労働者の意見を聴く機会を設けることが求められています。この辺りが出来ておらず、指摘を受けるケースが多くあります。労働時間管理や賃金の支払いのみならず、安全衛生についてもしっかりと普段から取り組んでいくことが求められます。