昨日は、友人と長野県の渓流に釣りに行ってきました。最近、熊があちこちで出没しているとのことなので、熊スプレーを持参して釣りをしました。花崗岩でできた川底のため、イワナは白っぽくとてもきれいな体色でした。自然を満喫できて有意義な休日となりました。
さて今回は、会社と過半数組合や過半数労働者代表と締結する協定(労使協定)について考えてみましょう。代表的な労使協定は、36協定が有ります。労基法第36条に定められているために36協定と言われますが、法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させるためには、この36協定を締結して労働基準監督署長に届出なければなりません。これを怠ると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。この他に、社労士が顧問をしていない企業等でよくあるケースとして、賃金控除協定が締結されていないことがあります。賃金控除協定とは、給与から労働組合費や社宅代、財形貯蓄の積立金などを控除するための協定です。何故、賃金控除協定が必要かというと、労基法第24条において、賃金の全額払いが規定されているからです。賃金は、その全額を労働者に支払うことが強制されています。ただし、所得税、住民税、社会保険料及び雇用保険料は別の法令で定められているため、賃金控除協定を結ばなくても賃金から控除することが認められています。従って、その他のものを賃金から控除する場合には、賃金控除協定が必要になります。賃金から控除するものとして、上記の他には、貸付金の返済金、弁当代、生命保険料、社宅の水道光熱費などが有ります。これらについても、賃金控除協定を締結していなければ控除することができません。以前に業務に必要な資格を取得するための費用を会社が支払い、一定年数以内に退職した場合には、その費用を本人負担として賃金から控除したいので、賃金控除協定を締結したいと相談が有りました。法令で定められているもの以外を控除するのですから、賃金控除協定が必要です。しかし、このケースでは、それ以前の問題があります。
資格取得費用を一定の条件の下、労働者に負担させるのは、労基法第16条の賠償予定の禁止に抵触することがあります。賠償予定の禁止とは、「労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしてはいけない」と言うものです。一定年数以内に退職をした場合に違約金として資格取得費用を支払わせることは「労働契約の不履行について賠償額を定める契約をする」ことにほかなりません。従って、例えば、「資格取得後1年以内に退職した場合には、○○○○の資格取得費用を返還すること」などと定めることはできません。
基本的には、業務に必要な資格を取得させる場合には、その資格取得は業務命令であるため、費用は通常、会社が負担することになります。しかし、業務に必要だからと言って、例えば普通自動車の運転免許を取得する費用まで会社が負担する必要があるか?というとそうではありません。普通自動車の運転免許は、例えばルートセールスで自動車で顧客先を訪問するような場合には、必須でしょうが、その業務を行うためだけに求められる資格ではありません。日常生活を行う上でも本人にとってメリットがあります。つまり、労働者本人の経済的利益にかなうものであるため、会社が負担する必要はありません。そうすると、会社が負担すべき費用は、業務上どうしても必要な資格等を取得する必要があり、業務を離れてしまえば、労働者本人にとって経済的利益のないものということになります。
資格取得の費用を退職した場合に労働者負担としたい場合には、次のような方法があります。資格取得費用を労働者に貸し付けるという方法です。この場合、会社と労働者で金銭消費貸借契約を結び書面にします。①返済の条件として、毎月一定額を返済する内容として、一定期間継続して勤務した場合には、その返済総額を資格取得奨励金などの名目で与える②一定期間継続して勤務する間は、返済を停止しておいて、一定期間が経過した後は債務を免除する、尚、一定期間継続して勤務できないときは、全額を一括返済する等の方法があります。会社としては、費用を負担して資格を取得させたのにすぐに退職されては困るということでしょう。気持ちは分からないでもありませんが、資格が、業務を離れても労働者本人に経済的利益のあるものに限って、このような方法も認められるでしょう。
話を元に戻しましょう。労使協定にはその他に1年単位の変形労働時間制を採用する場合、時間単位の年次有給休暇制度を導入する場合、フレックスタイム制を導入する場合、一斉休憩の適用除外を導入する場合などが有ります。多くの場合は、労使協定を締結した時からその効力が発生しますが、36協定については、労働基準監督署長に届出をしたときから効力が発生しますので注意が必要です。仮に4月1日から1年間を協定期間として36協定を締結しても、届出が4月5日であった場合、36協定の効力は、4月5日から翌年の3月31日までとなります。つまり、4月1日から4月4日までは36協定の効力が及びませんので、残業や休日出勤をさせることはできません。
労使協定は、法令で定められている禁止事項を労使の自治に委ねて解除する効果があるために、その締結後は、全文を労働者に周知する必要があります。労使協定を締結したが、社長の机の中に眠っているなどと言うのは、協定の効力が発生しないこととなるために注意が必要です。労働者が、法令と異なる労働条件で働くこととなるために、適切に周知を図り労働条件がどのようになっているかを知らしめることが非常に重要です。皆さんの会社では、各種労使協定が周知されているでしょうか?一度ご確認ください。