人材定着のための具体的な処方(38)

自民党総裁選の結果、石破茂氏が総裁に就任しました。近々、衆議院の解散総選挙が行われるでしょう。今日は、衆議院議員に新人で立候補予定の若い女性を支援する会に参加してきました。国会議員の約3割が60歳以上であるのに対して40歳以下の国会議員は1割しかいない現状。高齢社会ではありますが、若者の政治離れが危惧されます。全ての世代が、政治に関心を持つような社会としていく必要がありますね。

 

さて、今回は、「特定受託事業者にかかる取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)についてお話ししましょう。フリーランス新法は、働き方の多様化が進み、個人事業主等が受託業務を安定的に実施できるように適正な取引を規定する法律です。令和6年11月1日から施行となります。個人事業主や従業員を雇用しない法人の代表者などいわゆるフリーランスが対象となります。フリーランスに対して業務委託を行う発注事業者に対して、①業務を委託する際の取引条件の書面等による明示②原則60日以内での業務に対する報酬の支払い③委託業務の一方的な成果物等の受領拒否、値引、返品の禁止④ハラスメント対策のための体制整備などがその内容となっています。この法律で言う業務委託は、物の製造、加工、プログラムの制作、映像制作、役務の提供などが規定されていますが、ほぼすべての業種が該当することになるでしょう。例えば、建設業における1人親方も「役務の提供」の委託先として業務委託を行う対象として保護されることとなります。

法律では、業務を委託する者を「特定業務委託事業者」といい、受託する者を「特定受託事業者」と言います。特定業務委託事業者、つまり発注する側は、発注に際して、①給付(委託業務の成果物や役務)の内容②報酬の額③支払期日④納期などを書面で交付するか、メールなどの電磁的方法により明示する必要があります。1人親方に役務の提供を依頼する場合、従来であれば、現場と日当を口頭で伝えるだけで済んでいたことがほとんどでしょう。ところが、フリーランス新法施行後は、書面やメールなどで明示しなければなりません。

 

報酬の支払いについても、60日以内に支払う必要があります。仮に、月末締めの翌々月払いなどと定めている場合は注意が必要です。10月末締め、翌々月の12月末支払いだとすると、10月1日に提供した役務に対する支払い期限は、11月30日になりますので、法違反となります。少なくとも10月末締め、翌月末日とすべきでしょう。

更に、1人親方に対する一方的な仕事のやり直しを命ずることも禁止されます。一方的というのは、特定受託事業者の責に帰さない理由でということで、発注者側が施工方法について誤った指示をした場合などが該当します。従って、適正な仕様説明や指示が重要となってきます。

 

ハラスメント対策としては、セクハラやパワハラ、マタハラなどの防止措置を講ずることが求められます。フリーランスは、事業主である以上、労働者ではありませんので、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法に定める事業主が講ずべき措置の対象労働者とはなりません。しかし、実態としては、特定業務委託事業者の使用人のようなケースがほとんどでしょうから、特定業務委託事業者の従業員から様々なハラスメントを受ける可能性があります。業務を発注する側の特定業務委託事業者は、従業員に対してハラスメント教育を行う、相談窓口を設置するなどの措置を講ずることが必要です。

 

フリーランスは、労働者ではないと言いましたが、労働者でない以上、原則的に労災保険や雇用保険といった労働保険が適用されません。法人の代表者であるフリーランスは、社会保険には加入しますが、個人事業主は国民健康保険と国民年金が原則となります。ただし、副業でフリーランスをしている場合には、社会保険については本業の保険が適用されるため、心配はありません。しかし、特に労災保険については、フリーランスとして行っている業務における災害については、本業の労災保険の対象となりません。そこで、フリーランスが労災保険の適用を受けるためには、自分で労災保険に特別加入する必要があります。令和6年10月31日までは、労災保険の特別加入は①第1種特別加入者(中小事業主)②第2種特別加入者(1人親方、自営業者)等の区分があり、いわゆるフリーランスは第2種特別加入者として労災保険に加入することができましたが、建設業の1人親方や個人タクシー運転手など業種が限定されていて、全てのフリーランスが加入できるわけではありませんでした。しかし、11月以降は、フリーランス新法の要件を満たすフリーランスは、従来の業種に当てはまらない場合には、「特定フリーランス事業」として特別加入することができるようになります。

 

労災保険の特別加入が認められるということは、フリーランスを労働者と同様に保護する必要があると国が考えているからです。今後、フリーランスが増加し、企業に所属せずに業務を請け負うケースが増加すれば、フリーランスを労働法制の内側に取り込んで、労働者として保護することも考えられるところです。実際に、1人親方や貨物運転者の事業主が就業中に発生した事故で被災した場合に、業務委託先である発注者の労働者性についての争いは従来から多くあります。裁判例では、専属専任かどうか、費用の負担、報酬の支払い方、時間や場所の拘束など様々な観点から、労働者性を判断しています。取引先をフリーランスが自由に選べる、受託拒否ができる、費用は自分で負担するなどの要件を満たさない場合には、労働者性が肯定されることがあります。「外注」だからという理由だけでは、労働者性を否定する材料にはなりません。フリーランサーに発注する場合には、その点を十分に協議して取引を行う必要があります。フリーランサーも生き生きと働くことができるようにお互いを尊重する必要がありますね。